大阪地方裁判所 昭和63年(ワ)1470号 判決 1988年8月09日
原告
株式会社和光ホーム
右代表者代表取締役
青井勇二
右訴訟代理人弁護士
金子利夫
同
吉野庄三
被告
黒田喜久榮
被告
利川彰
被告
徳山博昭
被告
新井成俊
被告
株式会社新井総業
右代表者代表取締役
宮岡教行
被告新井成俊、同株式会社新井総業訴訟代理人弁護士
阿部幸孝
主文
一1 被告黒田喜久榮と被告利川彰との間の、別紙物件目録(一)記載の土地(以下「本件土地」という。)についての別紙登記目録(一)記載の内容の賃貸借契約、及び別紙物件目録(二)記載の建物(以下「本件建物」という。)についての別紙登記目録(七)記載の内容の賃貸借契約を解除する。
2 被告黒田喜久榮と被告徳山博昭との間の、本件土地についての別紙登記目録(二)記載の内容の賃貸借契約、及び本件建物についての別紙登記目録(八)記載の内容の賃貸借契約を解除する。
二1 右一1の判決が確定したときは、
(一) 被告利川彰は、本件土地について別紙登記目録(一)記載の登記、及び本件建物について別紙登記目録(七)記載の登記の各抹消登記手続をせよ。
(二) 被告新井成俊は、本件土地について別紙登記目録(三)記載の登記、及び本件建物について別紙登記目録(九)記載の登記の各抹消登記手続をせよ。
(三) 被告株式会社新井総業は、本件土地について別紙登記目録(五)記載の登記、及び本件建物について別紙登記目録(一一)記載の登記の各抹消登記手続をせよ。
2 右一2の判決が確定したときは、
(一) 被告徳山博昭は、本件土地について別紙登記目録(二)記載の登記、及び本件建物について別紙登記目録(八)記載の登記の各抹消登記手続をせよ。
(二) 被告新井成俊は、本件土地について別紙登記目録(四)記載の登記、及び本件建物について別紙登記目録(一〇)記載の登記の各抹消登記手続をせよ。
(三) 被告株式会社新井総業は、本件土地について別紙登記目録(六)記載の登記、及び本件建物について別紙登記目録(一二)記載の登記の各抹消登記手続をせよ。
三 右一1及び2の判決が確定したときは、被告株式会社新井総業は、被告黒田喜久榮に対し、本件建物を明け渡せ。
四 訴訟費用は、被告らの負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求趣旨
主文同旨
二 請求の趣旨に対する被告新井成俊、被告株式会社新井総業の答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、株式会社である。
2 被告黒田喜久榮(以下「被告黒田」という。)は、昭和五九年七月二九日株式会社エスコリース(以下「エスコリース」という。)から、次のとおり金員を借り受けるとともに、これを担保するため同年八月一〇日その所有の本件土地建物(以下併せて「本件不動産」という。)に抵当権を設定し、その登記を了した。
金額 二五七〇万円
利息 年8.3パーセント
返済方法 昭和五九年九月から昭和八四年八月まで、毎月一〇日に各二〇万三五〇〇円
遅延利息 年14.6パーセント
特約 一回でも支払を怠ったときは、請求により期限の利益を失う。
3 原告は、被告黒田の委託を受けて、昭和五九年七月二九日、被告黒田がエスコリースに対して負担する右債務を連帯保証した。
4 被告黒田は、昭和六〇年一〇月分以降の分割弁済金の支払を怠ったため、エスコリースの請求により期限の利益を失った。
5 原告は、昭和六〇年一一月一五日エスコリースに対し、右3の保証債務の履行として右残元金二五三〇万四五四三円のほか利息・損害金全額を弁済したので、被告黒田に対し、同額の求償債権及びこれに対する同日から支払ずみまで商事法廷利率年六分の割合による遅延損害金債権を取得するとともに、右範囲においてエスコリースの右抵当権を取得し、その移転の付記登記がなされた。
6 ところで、被告黒田は、昭和六〇年四月二二日ごろ被告利川彰(以下「被告利川」という。)に対し、本件土地を別紙登記目録(一)記載の内容で、本件建物を同(七)記載の内容で、それぞれ賃貸し、同(一)、(七)記載の仮登記がなされた。
7 また、被告黒田は、昭和六〇年八月二七日ごろ被告徳山博昭(以下「被告徳山」という。)に対し、本件土地を別紙登記目録(二)記載の内容で、本件建物を同(八)記載の内容で、それぞれ賃貸し、同(二)、(八)記載の仮登記がなされた。
8 次いで、被告利川は、昭和六〇年一二月五日ごろ被告新井成俊に対し、本件不動産を転貸し、別紙登記目録(三)、(九)記載の仮登記がなされた。
9 また、被告徳山は、昭和六〇年一二月五日ごろ被告新井成俊に対し、本件不動産を転貸し、別紙登記目録(一〇)記載の仮登記がなされた。
10 更に、被告新井成俊は、昭和六一年三月二〇日ごろ被告株式会社新井総業(以下「被告新井総業」という。)に対し、本件不動産を転貸した。被告新井総業は本件不動産の占有を取得し、別紙登記目録(五)、(六)、(一一)、(一二)記載の仮登記がなされている。
11 大阪地方裁判所昭和六一年(ケ)第一三五七号不動産競売事件における鑑定評価によれば、本件不動産の評価額は一〇二七万円であるところ、右6ないし10のとおりの正常・短期の賃借権(以下「本件賃借権」という。)が付着することを前提にすると八二〇万円であるから、右短期賃貸借の存在は原告に損害を及ぼすものである。
よって、原告は、
(一) 民法三九五条但書に基づき、主文第一項のとおり短期賃貸借契約の解除を求め、
(二) 右(一)が確定した場合には、抵当権者として被告黒田に代位し、主文第二項のとおり登記の抹消を求め、
(三) 右(一)が確定した場合には、抵当権による妨害排除請求権に基づき、主文第三項のとおり被告黒田に対する本件建物の明渡しを求める。
二 請求原因に対する被告新井成俊、被告新井総業の認否
1 請求原因1は不知。
2 同2のうち、抵当権設定登記がなされていることは認め、その余は不知。
3 同3、4は不知。
4 同5のうち、抵当権移転登記がなされていることは認め、その余は不知。
5 同6ないし10は認める。
6 同11は争う。
第三 証拠<省略>
理由
一被告新井及び被告新井総業(以下この二名を「被告新井ら二名」という。)に対する関係では、請求原因2のうち抵当権設定登記がなされている事実、同5のうち抵当権移転登記がなされている事実、同6ないし10の事実は、いずれも当事者間に争いがない。
また、被告黒田、被告利川及び被告徳山(以下この三名を「被告黒田ら三名」という。)に対する関係については、同被告らは、適式の呼出を受けながら本件口頭弁論期日に出頭しないし、答弁書その他の準備書面を提出しないから、右事実をいずれも自白したものとみなされる。
二そして、右争いがないものを除くその余の請求原因事実については、<証拠>により、いずれも認めることができ、右認定に反する証拠はない。
三右によれば、被告新井総業に対する本件建物の明渡請求を除く請求及び同被告を除くその余の被告に対する請求には理由があることは明らかである。
四被告新井総業に対する右明渡請求の可否について検討するに、短期賃貸借契約が民法三九五条但書により解除された場合には、不動産の抵当権が実行された以後の段階において、その賃借人の占有の継続がそれ自体目的不動産の価値を著しく低下させないと認められる特段の事情がないかぎり、抵当権者は賃借人に対して所有者への明渡を請求できると解するのが相当である。
その理由は、次のとおりである。すなわち、抵当権は目的不動産の価値を優先的に把握するにとどまって、その占有を支配するものではないが、その価値を侵害する物理的毀損行為に対しては、抵当権者は、物権的請求権を行使して担保価値を減少させる第三者の行為を防止することのできることは肯定されている。そして、短期賃貸借が抵当権者に損害を及ぼすと認められて解除されても、なおその賃借人が占有を継続すること自体により通常目的不動産の価値が減少させられるが、これは、担保価値それ自体に対する侵害行為に外ならず、抵当権が実行されたのちは、その侵害が現実化するものということができる。したがって、抵当権者は、抵当権の実行に着手したのちは、叙上の物権的請求権行使の一環として、現実化した右侵害を排除するため、右賃借人に対し所有者への明渡を請求できると解するのが相当と考えられる。もっとも、短期賃貸借解除後の賃借人の占有の継続がそれ自体目的不動産の価値を著しく低下させないと認められる特段の事情があるときは、その占有がそれ自体抵当権を侵害するものとはいえないから、右明渡を認める必要のないことはいうまでもない。
そして、このように、解除によって占有権原を失った賃借人の占有の排除を抵当権者に認めても、右賃借人の利益を侵害するところはないし、このような権限を抵当権者に認めることは、抵当権者は解除によって無効になった賃借権設定登記ないしは同仮登記の抹消を求めることができると解されていることと符節を一にするものということができる。もともと、短期賃貸借が抵当権者の請求により解除されても、右賃貸借契約を締結した当の所有者に賃借人に対する明渡を求めることを期待することはできないから、右賃借人の占有の継続自体が目的不動産の価値を減少させているにもかかわらず、抵当権者に明渡請求権限を認めないこととすると、競落以前においてこれを是正する方法はないに等しくなるが、この結果は、価値権と用益権の調和をはかるためにもうけられた短期賃貸借制度の解釈として当をえたものということができないのである。
本件においては、右特段の事情の主張立証がないから、占有者である被告新井総業に対し、所有者である被告黒田への明渡請求を認めるべきものである(ちなみに、本件については、前掲各証拠によれば、次の事実関係であると認められる。すなわち、賃借人である被告利川及び被告徳山はそれぞれ別個に、本件土地及び本件建物の双方について短期賃貸借を設定し、いずれも昭和六〇年一〇月一四日受付の仮登記を経た。本件不動産登記簿には、賃借権の内容として両名とも、一致して、賃料、本件土地が一か月一平方メートル当たり一〇〇円、本件建物が同じく一〇円、譲渡転貸が可能との記載がある。なお、被告利川の短期賃貸借は同被告の根抵当権設定と同時に設定された、いわゆる併用型短期賃貸借である。そして、右両名の短期賃貸借は、その後いずれも被告新井に譲渡され、それがさらに被告新井総業に譲渡された旨の各仮登記がなされている。本件不動産は現在、被告新井総業が現実に占有している。)。
五以上によれば、本訴請求はいずれも理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条一項本文に従い、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官川口冨男 裁判官園部秀穗 裁判官齊木利夫)
別紙物件目録
(一) 大阪市平野区瓜破六丁目一七四番三〇
宅地 42.83平方メートル
(二) 右(一)地上
家屋番号 一七四番三〇
木・鉄筋コンクリート造瓦葺三階建居宅
床面積
一階 26.47平方メートル
二階 26.94平方メートル
三階 27.87平方メートル
別紙登記目録
(別紙物件目録(一)記載の土地について)
(一) 乙区六番
賃借権設定仮登記
昭和六〇年一〇月一四日受付第五一二一九号
原因 同年四月二二日設定
借賃 一か月一平方メートル当り一〇〇円
支払期 毎月末日
存続期間 満三年
特約 譲渡転貸ができる
権利者 被告 利川彰
(二) 乙区八番
賃借権設定仮登記
昭和六〇年一〇月一四日受付第五一二六二号
原因 同年八月二七日設定
借賃 一か月一平方メートル当り一〇〇円
支払期 毎月末日
存続期間 満三年
特約 譲渡転貸ができる
権利者 被告 徳山博昭
(三) 乙区六番付記一号
六番仮登記賃借権の移転仮登記
昭和六〇年一二月一一日受付第六二九〇八号
原因 同年一二月五日譲渡
権利者 被告 新井成俊
(四) 乙区八番付記一号
八番仮登記賃借権の移転仮登記
昭和六〇年一二月一一日受付第六二九一〇号
原因 同年一二月五日譲渡
権利者 被告 新井成俊
(五) 乙区六番付記一号付記一号
六番付記一号仮登記賃借権の移転仮登記
昭和六一年三月二七日受付第一四八八八号
原因 同年三月二〇日譲渡
権利者 被告 株式会社新井総業
(六) 乙区八番付記一号付記一号
八番付記一号仮登記賃借権の移転仮登記
昭和六一年三月二七日受付第一四八八九号
原因 同年三月二〇日譲渡
権利者 被告 株式会社新井総業
(別紙物件目録(二)記載の建物について)
(七) 乙区四番
賃借権設定仮登記
受付日・受付番号その他の登記事項は右(一)に同じ
(八) 乙区六番
賃借権設定仮登記
受付日・受付番号その他の登記事項は右(二)に同じ
(九) 乙区四番付記一号
四番仮登記賃借権の移転仮登記
受付日・受付番号その他の登記事項は右(三)に同じ
(一〇) 乙区六番付記一号
六番仮登記賃借権の移転仮登記
受付日・受付番号その他の登記事項は右(四)に同じ
(一一) 乙区四番付記一号付記一号
四番付記一号仮登記賃借権の移転仮登記
受付日・受付番号その他の登記事項は右(五)に同じ
(一二) 乙区六番付記一号付記一号
六番付記一号仮登記賃借権の移転仮登記
受付日・受付番号その他の登記事項は右(六)に同じ
以上の各登記の所轄法務局は、いずれも大阪法務局東住吉出張所